ブレーンヒューマニティー

管理されない発想が生み出す多様なキャンプ

 

昼間から学生がいっぱいの事務所。
「え、19時以降は足の踏み場もないくらい、学生だらけになりますよ。まだ少ないほう」
ブレーンヒューマニティー(通称:ブレヒュー)の事務所は、阪急西宮北口駅近のビルのワンフロア。
現在、事務所にもっともっとたくさんの学生が入れるようにとロフトを増設中です。
正座で20人くらい入るスペースだとか…
専門家からは『事務所の床がもつのか??』なんて突っ込みもあったそうで(笑)。

 

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とにかくたくさんの人がいるのに、通された部屋は物音一つ聞こえない。
そこで響き渡るのは、ブレーンヒューマニティー理事長 能島さんの声。
なにはともあれ、団体について伺ってみました。

 

 

■キャンプ嫌い。子ども嫌い。でも大切なのは…

 

能:ブレヒューの活動のきっかけは、阪神淡路大震災でした。

僕たちは、家庭教師として被災した子どもたちに勉強を教えていたんです。

その中で、子どもたちを遊びに連れて行ってほしいという要望が保護者からあり、

『じゃあキャンプにでもいくか』と。

ところが僕らはキャンプの知識は皆無。

だれもが思いつくキャンプを1泊2日でしたんですけど、もうヘトヘトでしたね。

僕はもう、キャンプはやめようと主張していたんですが、保護者からは好評でやめるにやめられず…。

僕ね、そもそも自然が嫌いで、不便なこと嫌いで、キャンプ嫌いなんです。

あ、虫も嫌い。キャンプ場でバルサンたいたりしてね。

 

年間10本以上のキャンプを実施し、たくさんの子どもたちにキャンププログラムを
提供している団体代表の言葉にしては意外…
あの…今の子どもたちにキャンプは必要なんですよね。

 

能:キャンプは必要でしょう!

僕はキャンプも子どもも嫌いなんですが、子どもたちにキャンプは必要だと思っています。

 

こ、子どもも嫌いなんですか???

 

能:ああ、一般名詞の子どもは大丈夫。固有名詞の子どもが苦手なんです。

個人的に「~~ちゃん」となると苦手だけれど、子ども全般は好きですよ。

家庭教師をするくらいですから、子どもの教育にも携わっていましたしね。

今、子どもの教育をサポートしないと将来地域も良くならないと思っています。

子どもは苦手だけど、子どもの教育は本当に大切だと思っているんです。

 

能島さんの言葉には、全く迷いがない。

 

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キャンプを行う団体、また指導員はこうあるべき…
子ども好きで、若い頃からキャンプリーダーを経験しておられたのだろう…
なんて固定観念を気持ちよく打ち砕き、
今の子どもたちにキャンプが必要な理由を整然と解説してくれました。

 

 

能:普通みんなが今やってる勉強は、勉強自体が目的化してるんですよね。

僕は、学ぶことの動機付けはどう形成されるかが大切だと思っているんです。

仲間と協力し合うとか、一緒に生活するとか、困難に立ち向かうなんてコトが、

彼らの学びの動機付けになっていく。

キャンプでは、どんなプログラムにも子どもたち自身が工夫しながら、

そのときの課題をクリアしようとするでしょう。

そんな子どもたち自身が自由に発想し、アクションを起こすことのできる環境が、

キャンプのような素朴な体験にはあると思っているんです。そこは魅力ですよね。

 

 

 

■定義のない、多様な企画を

 

そんな能島さんのもと、キャンプを企画・運営するのは学生たち。
職員は企画自体にはノータッチだそうです。

 

 

能:学生の企画には安全管理のチェックはしますが、内容に関して監査はしないですね。

ブレヒューの価値観として、『多様性』を大切にしています。

子どもたち自身がいろんな選択肢から選ぶことが大切だと思っているんです。

だから、学生たちの自由な発想から生まれる多様なキャンプがたくさんあっていいと思うんです。

ブレヒューには、だれもが想像するキャンプとは対極のものもあります。

2泊3日勉強だけをするキャンプ!

キャッチコピーが秀逸でね、『夏休みの宿題が終われば本当の夏休みが始まる』っていうね。

 

北:あれには、親は子どもに内容を言わずに連れて来ましたね。

そのキャンプがファーストキャンプだった子がいるんですよ。

生まれて初めてのキャンプが、1日12時間勉強するという…

キャンプに行くのに、子どものリュックの中は勉強道具満載だったということです。

 

と言うのは、ブレヒュー事務局長の北村さん。

 

大手百貨店勤務を経てブレヒューに参画。今では団体運営面すべてを掌握している重要人物です。
職員は現在3名。
それに対し、多種多彩なキャンプに携わる学生の登録数は950名!
能島さんや北村さんの後輩となる関西学院大学生が多いそうです。

 

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北:基本うちで活動している学生は、いわゆる明るく元気で活動的な『リーダー』って感じではないかな?

現場でもパソコンを持ち込んで予算管理してたりします。

あ、でも教育学部の子も多いから、子ども好きな子は多いですよ。

リーダーとしての専門技術で勝負というより、

プロジェクトやプログラムの企画や事前準備でその質を保っている団体です。

もちろんリーダーも現場で日々成長していますが。

その分エクセルが得意(笑)。みんな事務屋です。

準備からやるということは、当日を迎えるまでの日常は事務ですよね。

その一瞬のためにパソコンとにらめっこしてエクセルな毎日を耐え忍んでいるという感じかな(笑)

 

 

スタディキャンプの他にも、子どもたちで屋台を運営するキャンプなど興味をひくプログラムも。
子どもにどうなってほしいか、
どんな時間を子どもにすごしてほしいか。
そんな視点で学生たちが考え抜いたプログラム。
定番のキャンプもありながら、たくさんの選択肢から選ぶことができる。
ブレヒューの提供するキャンプの魅力は、その多様性といえそうです。

 

 

■学生による自由な企画運営のウラに

 

能:学生は本当にがんばっていますよ。

基本的にプロセスには関与しない。結果と成果にしか関与しないんです。

 

大学生は学校生活と社会生活との中間地点に位置していて、そのタイミングで彼らが学ぶべきことってあると思うんですよね。

高校生活は、だれかがプロセスを管理していて、その分結果に対してのこだわりってあまりない。

勉強すればいい、練習すればいいなどと、プロセスがきっちりしていればいいと理解していたものに対して、

彼らが出て行く社会というのはどれだけ成果をだしてたか、どういった価値を提供したかを判断される。

ということは、そのプロセスは自分で考えないといけないんですよ。

大学生の間に、学生自身が誰かにプロセスを管理されることなく、自分で目標を設定して

目標に対してきっちり成果をだしていくという体験が必要だと思うんですね。

いきなりその状況にポイっと放り出されて、どうすれば結果をだせるかというプロセスを

自分で考えることができるかというとそうではなくて、誰かが見守らなくてはいけないですよね。

そんな学生に対して、僕らがやるべきなのは基本的に「待つ」ということ。

もしわれわれが必要であれば、自分から助けを求める。

助けを求めるチカラもなければ、何をするにも無理なんでね。

 

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北:ひとつのプロジェクトをやるにあたって、僕たち大人の関わり方はざまざまです。

僕は、実施日直前にできてないなんてことはいやなので、

一定期間の目標を確認しながら小刻みに確認していくとかね。

ただ、妥協はさせないですよ。学生が生み出すことを「待つ」のが仕事ですから。

僕はゴールに向かって一緒にやってますよ。

 

能:僕はいつも『できてればいいから』が口癖なんで。

 

北:ホントに、理事長は前日の22時くらいにふた開けるんですよ。

で、『できてないやんけ』って…そこからね、地獄がはじまるんですよ(笑)。

 

企画を担当するものとしては、背筋が凍るような話で笑えませんが…
フォローしてくれる大人があるからこそ企画に没頭できる。
そこから生まれるアイディアは自由度も高く、学生ならではの発想も飛び出すのでしょう。

 

 

<番外編> 企画する学生さんってどんな人たち?

 

ここまでのお話から、ブレヒューではどんな学生さんが企画をしているのか気になりませんか?
せっかくなので、ブレヒューの企画に携わる学生4名に、お話を伺いました。
この4名は事業の企画はもちろんのこと、事業全体の流れすべてを把握している核となるメンバーです。

 

今:今城真子さん 武庫川女子大学3回生

隆:隆野咲紀さん 関西学院大学4回生

佐:佐藤彰保さん 関西学院大学4回生

福:福井邦晃さん 関西学院大学3回生

 

佐:ブレヒューに入ったきっかけは…

僕はみんなと集まって遊ぶのが好きでサークルに入ったのですが、

そこの先輩が『お前がボランティアしたらおもしろいよな』って携帯電話取り上げて、無理やり連絡を…。

それまでボランティアに興味なかったんですよね。でも、ココに来てみたらおもしろくて。

先輩、ファインプレーでしたよ!完璧に適性を見破られてましたね。

その後いろんなキャンプにかかわって、2回生で子どものキャンプを総括的にまとめる部の副代表になり、3回生では代表に。

4回生の今は、思うことがあって企画を精査し見守る側から現場で実務をする側に戻ってきました。

 

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統括としてがっちり学生をまとめてきた佐藤君。その「思うこと」とは…?

 

佐:僕、1回生のときのキャンプのあり方が好きだったんです。

「かかわるスタッフみんなで企画しようよ」ってスタイルを大切にして活動していたんですね。

でも年月を重ねるうちに、どんどん本部の負担が増えてきたんです。

本部も当日きてくれるスタッフも、みんなで作ったキャンプなんだという思いをもって当日実施

することが大切なんじゃないかなと思って、今やってみてるところなんです。

 

みんなで一緒につくりあげる楽しみを、後進に伝える役割をかってでた佐藤君。
そして、彼を支えるのは同学年の隆野さんです。

企画は楽しい??

 

隆:佐藤の部下です(笑)。企画する事は正直苦しいです。アイディアが出てこないのが本当に苦しくて…

過去の資料を探って、企画案を絞りだしたりしました。そんな手段は先輩から教えてもらいましたね。

ココでは学生が学生を育てるんです。一生の友達も信頼できる人もココでいっぱいできました。

大学生活よりもブレヒューでの活動の方が充実しているかも(笑)

 

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現在ブレヒューの事業全体の統括を担当している福井君も…

 

福:1回生のとき誘われて入りました。一緒に入った友だちは今活動していないけど…。

ココの活動については、いろんな評価があります。

でも活動している学生は本当にいい人ばっかりで居心地が良いですね。一緒にやってて楽しい。

 

彼が実際にやっている作業は主に情報配信。
名簿作りとか顧客管理、イベント情報のメール配信などなど、ほとんど事務所ではエクセルと共に過ごすそうです。

 

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福:事業の企画に関しての規定がたくさんあって、それを守ればできるようになっています。

でも簡単ではないし、本当に大変なことをやってると思います。

うーん、スケジュールどおりにすることが楽しいかな(笑)。

 

関西学院大学の学生が多い中、武庫川女子大学出身で友だちと活動に参加したと言うのは今城さん。

悩ましいこと、ありますか?

 

今:企画することは楽しいですよ。参加する子どもたちがどうしたら楽しめるかを考えるのが楽しい。

いろんな意見が出てくるので、刺激にもなります。

でもイイコトばかりではなくて、準備が思うように進まないときは…しんどい。

予定が崩れ出すと、子どもたちにこうなってほしいという目的を前に、

実務に時間を取られて悩んだりしました。

 

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佐:それぞれ目的を持って企画するけれど、日々の忙しさにその目的が薄れていくんです。

自分もノウハウがなかった1-2回生のころはそうでした。

いろいろやって流れがわかった今だからこそやりたいことが見えてきたんです。

 

福:事業を仕切る3-4回生のモチベーションが問題になってきますね。

ご飯行ったりして、自然な流れで先輩と後輩が親睦を深めて、テンションをあげてます。

佐:ココでの活動は、正直学生がやることじゃないなと思う。息抜きが必要になりますね(笑)。

僕はテニスのサークルにも入っているんですけど、行き詰まったらその仲間と過ごしたりしています。

 

確かに、会社みたい。縦割りの組織がぼんやりと見えてきます。

そんなブレヒューの活動から、自分を見つめなおし、将来につなげています。

 

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隆:ちょっとしたことで人間関係が崩れていくこともありますが、

たくさんのスタッフとつながりを持てていることは本当にうれしい。

活動を通して、自分は人を支えることが好きなんだなと気づいたんです。

これからも人を支えていく仕事に就きたいと思っていて…実は内定をいただいた会社は、

私のココでの活動をとても評価してくださったんです。

 

佐:僕は人をまとめて事業を運営し、どうしたら人のモチベーションが上がるか、

仲間をやる気にさせられるかをずっと考えていました。

統括するにはスケジュール管理も大切です。その部分をアピールして内定をいただきました。

 

二人とも大手企業の内定を勝ち得た後も、後進のために活動を続けています。

 

福:僕は教育学部なので、小学校の先生を目指していました。

ココでの活動をしているうちに、他の道にも興味がわいてきて…。

最終的にはやはり先生になりたい。でも勉強だけじゃなくて、

他にも子どもたちに伝えられることがあるんじゃないかと思うんです。

だから就活して、社会人を経験してから先生になろうと思っています。

 

先輩から後輩へ、受け継がれるものはノウハウだけではないのでしょう。
難しい、大変…といいつつ、楽しんで彼らが企画するからこそ、
子どもたちに選ばれるキャンプが生まれるんですね。
今後も、学生の底力と可能性が詰まった企画が期待できそうです。

 

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≪取材≫ 松本 ≪撮影≫ 山崎